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講演「働き方改革関連法のポイント」を聴講して2019年02月08日

佐賀県社会保険労務士会主催の社労士制度50周年記念講演会での水町勇一郎教授による「働き方改革法」に関する講演を聴講しました。
水町先生というと,佐賀のご出身で労働法の第一人者の研究者ですが,今回の講演では働き方関連法について,企業の労務担当者や社労士を対象にした実務的な内容でのお話をされています。
非常に有益な内容の講演でしたので,コラムで概要をご紹介したいと思います。

労働時間の上限規制(改正労基法36条)について
原則として「月45時間,年間360時間」という規制がされている。これは月平均の勤務日数が22日とすると1日平均の残業時間としては2時間に収まらないといけない。
臨時的な事情で労使協定に基づく上限として,単月100時間未満,年間720時間以下(休日労働を含む)という例外はあるが,【例外が適用されるのは6ヶ月まで】であり,例外が常態化するとあっという間に違法となる。
また,例外の中には2ヶ月~6ヶ月平均で1月あたり80時間以下(休日労働を含む)という規制もあるので,ある月の時間外労働時間が99時間だとしたら,その翌月は時間外労働時間が61時間を超過すると違法となる。
現在,労基署の調査では3ヶ月程度の期間の労働時間を調べているが,今後は直近1年間,及び直近年度の労働時間を調べて違反の有無を判断することになり,これまで以上に調査や摘発が厳しくなるのではないか。
使用者としては,繁忙期を把握し,特に例外が6ヶ月までと言うことと原則は月45時間という規制を強く意識し,残業抑制のための計画的な業務運営や人事異動,追加採用を考慮しなければならない。

年休付与義務(改正労基法39条)について
毎年5日の年休付与を使用者義務づけ(違反については罰則あり)
同規定は,労働者が休暇を取得する日を選べる日本型の年休制度から,使用者が計画的に年休を付与するヨーロッパ型の年休制度への転換を意図して規定されたもの。
一見すると労働者に選択権があるほうが労働者に利益だと思えるが,実際は労働者が年休を取得できない現実があることや,仮に取得しても休暇後に仕事が溜まっているなどでかえって負担が重くなると言う問題を解消することが目的である。
ヨーロッパでは年度初頭に労働者の意見を聞いて使用者が休暇の年間カレンダーを作成し,それにしたがって年休を取得しているので年休の未消化問題は生じない。かえって予め休みと決めた方が休みやすい側面がある。
改正法でも使用者には労働者からの意見聴取義務(労基則24条の6)が規定され(意見を尊重することは努力義務にとどまる)ている。
もっとも,労働者の時季指定や計画年休により消化された分は5日に含めてよいので,今後はヨーロッパのように予め年休計画を策定し予め付与する形と,ある程度の期間,たとえば起算が4月1日なら,12月31日時点で未消化の年休がある場合に1月から3月にかけて年休を付与する「途中から付与型」のどちらかで運用するのが望ましいのではないか。

なお,採用時期等により年休付与のタイミングがまちまちの企業もあると思われるが,前倒しして付与することは禁止されないので,付与時期を一本化して一括管理することで効率化を図ることができると思われる。
時間単位年休は付与義務の履行にはならないが,厚労省通達(H30/9/7 基発0907第1号)では「労働者が半日単位の年休取得を希望した場合には半日単位で年休を付与しても差し支えない」とされる。
また,本規定の導入にあたり,従前存在した特別休暇制度(夏期休暇や年末年始休暇等)を廃止し年次有給休暇に振り替えることは「法改正の趣旨に沿わない」(H30/12/28基発1228第15号)とされていることにも注意。
(*筆者注:こういう会社は多いかもしれませんが,労働条件の不利益変更にも当たりますし,違法無効となる可能性が高いのでやめた方が良いでしょう)

正規・非正規労働者の待遇是正
パート労働者,有期労働者に関する諸規定を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」
(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」)に統合し一括して保護することになった。
同法8条では不合理な差別を禁止しているが,これは「個々の待遇ごとに」合理性を判断するものであり(長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件参照),トータルでつじつまが合っていればいい,ということはない。
例えば賞与でも業績貢献に対する評価とするのであれば,パート労働者も行政に期待する貢献が認められる異常,正職員にのみボーナスを支給する,というのは違法となる(貢献の程度に応じて差違を設けることは可能)。

派遣労働者についても,派遣先従業員と同程度の待遇を保障することが原則となった。
もっとも,そのためには派遣先から派遣元に対して労働者の勤務条件等を開示する必要があるが,これに応じる派遣先企業は少ないと思われる。
例外として,同種業務の一般的労働者の平均賃金額(全国統計に地域の係数を乗じて算定することになる)以上であり,法廷の教育訓練を行うこと等の条件を定めた労使協約を締結し遵守している場合には,派遣元企業の労使協定に基づく取り扱いを認める規定が設けられているが,ほとんどがこの形になるのではないか。
この場合,派遣先は派遣元に対し,平均賃金額にくわえて派遣元が得る利益分を上乗せした額の支払いが必要になるので,かえって派遣労働者を利用する方がコスト増になることも考えられる(特に製造職,事務職の派遣)。
そうすると今度は「偽装請負」が発生することも予想されるが,この点については労基署が厳しく監督しており,法の趣旨の潜脱にならないよう今後も取り締まりを徹底する必要がある。

働き方改革法の施行により,労務管理は70年ぶりの大転換を迎えることが予想される。
必要なコスト増や事業計画を早い段階で想定し,経営トップによる「インフラ整備」と「マインドセット」が求められている。


以下は半田の雑感ですが,今回の改正は多岐にわたり,かなり技術的にも検討を要するところが多いと思われます。
対応の大部分を担われるのは社会保険労務士になると思いますが,例えば「合理的な差違」かどうかの当てはめについては,直近の最高裁判決を敷衍した判断が求められるところもあり,弁護士がアドバイスをさせて頂くことが望ましい部分もありそうです。
今後は施行に向けて,弁護士と社労士が連携をしつつ,よりよい労使関係や労使双方の納得の得られる労働条件の構築が重要になってくると思います。

なお,本記述は全て半田の責任において整理しており,要約や内容の誤り等が合った場合の責任も全て筆者である半田にあることを付記しておきます。
(半田)
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